感情の墓場

一度感情を言葉にしてしまえば、後に残るは言葉だけ

君の肩の上の世界は見えないけど、その肩に手を添えられるようになりたい【天気の子感想】

小説読んでから二回目を観に行った結果夏美と須賀に打ちのめされてしまったという感想

  物語の中に存在する横並びになった人生というのがとても好きで、例えばキキとウルスラであったり小学生の若おかみとお客たちであったり。過去未来、人生の段階を並列にして進行するお話は色々な人の目線で見ることが出来てどこまでも感情を弄くり回せて大変危険。

 今作で並んでいるのはK&Aの三人。少年帆高、モラトリアムから抜け出せない出たくない夏美、一気に飛んで大切なモノを得てそれを失うところまで行ってしまった須賀。須賀と夏美の間は人生の段階としてかなり開きがある気がしますがそこには普通の人達が入るのかなぁとか思ったり。

 

****************

 

夏美さんのモラトリアムの終わらせ方がひたすらズルくて

思いっきり押した背中を見送りながら、その反動で少しよろめいて立ち止まり

掛けていく少年の先の入道雲、雨の予感と夏の終わり

まぁ映画ではすぐ帆高くんにカメラが切り替わってそんなカットは無いんですけどあったんですよきっと、その景色が全て。

 

****************

 

 帆高くんのことを一番良くわかって上げられるのが須賀さんだと思っていて(これも大人に感情移入した大人の傲慢な感想だとも思いますが)恋の為にお互いの家族家庭という規範と戦って結ばれるに至った少年期~青年期。喪失に囚われてしまった時期。そして残った大切なものと共に歩む為に生活を積み重ねている今。

 大切なものの順番を入れ替えるのが難しくなったという彼は言葉通りに一度は今まで抱えてきたものの為に帆高くんを突き放す。終盤、帆高について刑事と話す内に自分も抱いていた切実な思いが蘇り、それと同時に自分の中の大切なモノの中にきっと帆高くんを新しく入れ込んだ。彼が未だ被疑者で娘のことでリスクを背負っても帆高くんを探して戻ってくるように引っ張ったのはそれ故であり、大切なモノを守ろうとする誠意であって、それは他の人間の振りかざしている規範とは一線を画すもので、だからこそリーゼントもぶん殴れるわけで。

 それでも、そんな温かい手でも帆高くんにとっては障害であり向けられる銃口の温度は弾を放っても尚冷めきっていて、鳴り響いた銃声のあとに訪れた静寂が、すれ違ってしまった誠意がただただ悲しく…

 

*****************

 

 そんなどうしようもなさを、廃ビルの錆びついてしまった踊り場を、踏み抜いて空への階段を駆け上っていく彼の姿が全て洗い流してくれるんですよね。すげー大人に肩入れして見ちゃうけど、だからこそやっぱりこの結論の出し方が好きなんですホント。

 なのでそうやって救われた自分が出来るのは、当人がどう考え何を抱えていてもガキに責任なんてねーんだよと笑ってその肩を叩いてやることなんだなぁと、そうして上げられるような大人にこれからなっていけたらいいなぁ。引いて欲しい余計なものと足して欲しい足りないものだらけの人生をこれからそうやって生きていく、いきたい、いけたらいいなぁ