感情の墓場

一度感情を言葉にしてしまえば、後に残るは言葉だけ

星を掴む為に今現実と戦え BanG Dream!

けもフレで頭がわりといっぱいだった2017年冬クール、見逃していた怪作を最近ようやく観ることが出来た。

BanG Dream!ガールズバンドの青春物アニメ。語りたいことは山ほどあるが1話に対しての所見を以て、このアニメの1つの見方を提示してバンドリ好きやバンドリ見てみたけど微妙だったなという人の一助なればと思う。

 

 

 

 

 

話は戸山香澄の高校入学の日から始まる。開幕3分間はやはり印象的だ。

まず香澄が叩き起こした妹に髪型を突っ込まれる。確かに一体どうやってセットしてるのかよく分からない猫耳じみた髪型。しかし見ていけば分かるが主要キャラのアクの強さに対して髪型なんてぶっちゃけ瑣末な事なので突っ込む必要なんてない。しかし状況の説明を差し置いて、真っ先に突っ込まれる。

先走った気持ちで朝飯も食わずに家を飛び出した香澄。ウィンドウに映る自分を見ながらくるりと回って気取ってみせる様子を、ウィンドウの向こう側のお客さんに笑われて一緒になって笑っている。

極めつけは校門前、学校を見て高ぶった香澄は「今日からお世話になります」と大声で一礼。そしてすぐ側にいたモブ生徒は突然のヤバイ人にビビりながら一言「え…?」と漏らす。明らかにマジトーン、ギャグではない。

ここまでの約3分、アニメにしては周囲のリアクションがやたら厳しい。戸山香澄というキャラクターはやたらポジティブで行動力に溢れた、まさに主役っぽい主役。アニメの登場人物って感じの登場人物であるがそれに対して香澄と周囲のファーストコンタクトは生々しい。こっちが恥ずかしくなるような行為に対して、周囲はまさしく恥ずかしい事してる人間を観るリアクションを取る。私達とアニメのモブのキャラの気持ちは同じなのだ、なんだコイツ…と。例えば情報量が少→多となるメディアミックスでは元作品では周囲まで描かれていないシーンがアニメで周りの人物が映り込んでしまうことで(こんな衆目のもとで何やってんだ)みたいな気恥ずかしいが生じてしまうことは稀にあるがバンドリに関してはそうではない。意図の元でなければ続く教室での自己紹介もあんなにヒヤヒヤするものにはならない。はぐみ(っぽい人)に唖然とされるなんて相当に相当の空振りだ。

とにかくこれが続く。たぶん5話辺りまで続くしそれ以降も思い出したように襲ってくる。フィクションの濃度が強い戸山香澄という人間を、この世界は最初、かなり受け入れてくれない。恐らく最たるものは3話のきらきら星だがやってることの本質や程度は1話からずっと同じだ。奇妙な生々しさ、そりゃそうなるわなと言うリアクションは各所に仕込まれている。

 

 

 

 

 

 フィクションとリアルの高低差にフラフラしながら見ていくと、もう一つ極めてリアルなものが最後に待っている。ライブシーンだ。1話終盤香澄はライブハウスを訪れて「出会っちゃった」するわけだがまず音にビビる。まさにライブハウスな音響。ライブの最中香澄たちは会話するのだが

「すごい!すごいね!」

「はぁ?何、聞こえない!」

最低限聞こえるが明らかに不明瞭な会話。普通セリフは聞き取りやすい範囲に収めて、話かけられた側の「聞こえない」というリアクションをもってライブハウスのうるさい状態を示すと思うのだが本当に良く聞こえない。何かやたらと演奏シーンの音の作り込みがリアルなのは全てのシーンで徹底される。バンド自体も極めてリアルを孕んでいるのだ。そしてやたら生々しい音響の中で星の煌めきを見つけた香澄からED(OP)に移り第一話は終わる。

 

 

 

 

バンドリはポジティブで諦めの悪い戸山香澄という人物を起点に一筋縄ではいかない登場人物を巻き込みながらバンドでステージを目指す、ストーリーだけみれば本格的にバンド主題であること以外真新しさはあまりない物に思える(キャラは濃いので十分そっちで勝負出来るが)しかしその構造は戸山香澄という星へ手を伸ばす者(フィクション)とその手をあしらう周囲、或いはバンド活動自体(リアル)との対立なのだ。この世界における基底は常に冷や汗の出るような、キャラクターに対して優しくないリアルにある。香澄はそのリアルをものすごい勢いで侵食していくことになるのだが、新しい場所に踏み出せばそこには常に未だ侵食されていない基底の世界が存在し続けている。

この高度の異なる2つの階層が生む位置エネルギーとそれを乗り越えていくポピパという構造こそバンドリというアニメの本質なのだと考える。正直見ているとむず痒さを通り越して不快に至る可能性もあるくらいにリアルを垣間見るシーンは徹底しているし、それが楽しいかどうかは視聴者の耐性次第としか言えない。これを十全に楽しめない人がいることもまた仕方のないことだろうと思う。誤解してほしくないのは、これらがよくある演出のミスによって生み出される不快感とは異なるものだということだ。この稀有な構造を持って作られるアニメとその先で現実と対峙する戸山香澄の物語は、間違いなく視聴の価値がある怪作であると信じている

 

 

 

 

と、それっぽい駄文をダラダラ書いてみたものの正直自身があまり一般的な感性の元に作品を視聴しているとは思っていないのでこういう偏った見方を人に勧めるのはあまり良くないだろうなぁと思いつつ。でも最低限周囲のリアクションの程度や演奏シーンについての追求に関してはそこを気にして見てもらえば強い意図を感じられる……と思う。ので、ガルパ(バンドリのスマホゲーム)を楽しんでる人やアニメはちょっと好きじゃなかったなぁみたいな人がちょっと見返してみようかと思ってくれたらいいなぁAmazonPrime会員バンドリ全話見放題(7/22現在)ですよろしくお願いします。